2010-04-01から1ヶ月間の記事一覧

第17回 ひらがなも満足に書けないくせに、おれは篆刻印を持っている。2005年10月の日記から、入手の経緯を再録する。

篆刻(てんこく)の存在を教えてくれたのは、西原理恵子の『恨ミシュラン』だった。 当時の週刊朝日の編集長が篆刻に凝っていて、サイバラは興味がないのにハンコを自慢されて迷惑だといった描写が作中にあった。それを読んだおれには、篆刻という渋い工芸に…

第16回 4月の添削課題の提出期限が迫っている。「受講のスタートが遅れてたぶんだけ練習に精を出さねば」と机に向かっていたら、くだらないことを思いついてしまった。

いまよりちっとはマシな字が書けるようになったら何を書くか? たくさんある候補のなかでもぜひ書いてみたいのが"くだらないこと"だ。 もう25年もまえに廃刊した雑誌、『ビックリハウス』。 短くまとめれば"読者投稿による冗談の雑誌"だ。中学生だったおれは…

第15回 昨日は「あ」行、今日は「か」行と、一日一行を目安として練習を続け、なんとかひらがなが一通り終わった。

もちろん、これでひらがながマスターできたわけじゃない。 長い年月をかけて凝り固まった自分の字の癖は、ちょっとやそっとじゃ直りゃしない。手本を見ながら忠実に真似して書いているつもりでも、あらゆるところに癖が顔を出す。"セルフ添削システム"を使っ…

第14回 ひらがなの練習である。テキストの見本を観察して、その通りに練習ノートの4分割の枡目に書く。書こうとする。書けやしねえ。

自分では見本をよく見ているつもりなのに、似ても似つかない字を書いてしまう。観察の際のポイントがわかってないのだろう。 手本をまねてるつもりなのに、自分の癖が出しゃばってくる。結果、どうにもバランスの悪い、腰の浮いた字になっちまう。 「ペン習…

第13回 ペン習字の練習は"楷書のひらがな"から始まった。なぜなら今月の添削課題がひらがな12文字だからだ。4月始まりに間にあってよかった。

添削課題は"いろは順"だが、現代人のおれは"あいうえお順"で練習する。 一日5文字ずつ。ずいぶんのんびりしたペースだが、欲張ってすぐに息を切らすよりはましだろう。 最初は「あいうえお」。C系統のお手本を見ながら、枡目に4分割の点線(リーダー罫と…

第12回 なんとか準備が整って、ペン習字の練習を始められるようになった。やる気はある。しかし自信はまったくない。

ふだん書く字が汚いことは自覚している。おまけに中学・高校の授業ですこしだけ習った書道も、かなり苦手だったのだ。思い出したよ。 中学で書道の授業があったのは、1年間だけだったように記憶している。 書道の授業は息抜きの時間、といったムードがあっ…

第11回  娘はつぎの春に中学生になる。これは彼女がまだ2歳だったころの話。

[ペン習字] 世田谷区のはずれに住んでいた。地図で見ると三方が調布市に囲まれていて、なにかの手違いで23区に混ぜてもらったような町だった。 おれも妻も昼の勤めに出ていたので、家を空けることが多かった。娘は保育所に預かってもらっていた。 通信販売を…

第10回 どんなジャンルにも特有の用語がある。新しいジャンルについて学ぶことは、あらたな単語や未知の語法と出会うことでもある。

おれにとって、ペン習字に興味を持ったことで出会った言葉の代表が「書きぶり」だ。寒ブリや親子どんぶりなら知ってたんだが。 書きぶり。意味の見当はつくが、目にも耳にもしたことがなかった。しかしスーパー大辞林を引いたら載っていた。なんだ、おれが無…

第9回 パイロットペン習字通信講座を受講する。しかし、決めたからといってすぐに学習を始められるもんじゃないのだ、これが。

まず、パイロットに資料を請求する必要がある。 オフィシャルページの申し込みフォームに記入するのが第一歩だ。この手続きを踏まないと、受講料の払込票が送られてこない。12600円を振り込むことイコール受講申し込み なので、面倒でも資料を請求する必要が…

第8回 ペン習字を学ぶと決めた。しかし、具体的にどうすればよいのかがわからないので、とりあえずネットで検索する。いきなり解答を与えてくれるサイトに出会うことができた。

たいていの疑問を解決してくれるよな、インターネットは。コンピューターへの依存度を高めるだけ高めといてから電力を取り上げて無力化する作戦だだろう、メフィラス星人よ。 おれの疑問を瞬時に解決してくれたのがここ。 『ペン字いんすとーる』 サブタイト…

第7回 伊東屋でお願いしたモンブランとウォーターマンの修理は、長ければ1ヵ月ほどかかるという。待つ間にもおれの万年筆熱が上がり続けていたので、手ごろな価格のものを1本買ってみることにした。

地元の文具店では万年筆が売られていなかった。これは意外だった。その店は、30年ほど昔には「東京で2番目に大きい文具店」を売り文句にしていたくらいだからそれなりの規模ではあるのだが、いまでは万年筆をほとんど置いていない。数本の在庫があるにはあ…

第6回 今年の2月。病室のベッドで半醒半眠の日々を過ごすなかで、しばしば父のことが思い出された。

父が亡くなってから24年になる。いま思えば、父はおれが好きなタイプの大人だった。陽気で温和、ろくに小学校も出ていないはずなのに物知りな人だった。おれが知っているのはこれだけで、あとは父の死後に祖母から聞いた話だ。その祖母も去年亡くなった。 腕…

第5回 2本の万年筆を修理に出すにあたって、ネットで万年筆についてあれこれ調べた。便利なもので、情報がどんどん入ってくる。

万年筆そのものを最初に製品化したのはウォーターマンだとか、モンブランはいまではリシュモンの傘下にあって品質の低下が指摘されているとか。ほんの数日まえまで万年筆に関してはまったくの門外漢だったおれが、短時間でにわか万年筆通になっていた。半可…

第4回 さまざまなペンを使ってさまざまな色でノーブルノートに試し書きをした。締りのない字で、1色につき1行だけの試し書き。それでも楽しかった。

「書き心地」。そんなものがあること自体をすっかり忘れていた。 ロットリングのボディーに刻んでもらった自分の名前―本名ではないが―を見て、いいもんだなと思った。たったの8文字の刻印があるだけで、大量生産の工業品が手作りの一品物に化けた気になる。…

第3回 ノーブルノートを買ったオンラインショップで、ロットリングのペンを注文することにした。

名入れ代は600円〜800円(ペンの素材による)だが、税別で5000円以上の買い物をすれば無料になる。さらに、送料までショップ負担だ。 ペン自体の定価は5000円だが、その店ではちょと安くて3900円をすこし欠けるほどだった。この値引きぶんを他の買い物で埋め…

第2回 ここ2〜3年のあいだ、おれにとって筆記用具は単なる道具に過ぎなかった。

かすれずに書ければいい、それだけの存在。そもそも手で文字を書く機会あまりなかった。原稿を書くにはパソコンのほうが便利だし、趣味と実益を兼ねていた塾講師の仕事でも、パイロットのドクターグリップ4+1があれば十分に用が足りた。 もう1本、まだ文…

第1回 おれがペン習字を始める理由は、短く言えば「脳梗塞のリハビリ」だ。

わかりやすい理由だと思う。この理由にあとからつけ加えた理屈もあるが、それらはすべて蛇足と感じる。でも、あれこれ書いておこう。こうして書くのもリハビリだから。 ひとくちに脳梗塞といっても症状には重度軽度いろいろある。重ければ発症直後に命を落と…