第15回 昨日は「あ」行、今日は「か」行と、一日一行を目安として練習を続け、なんとかひらがなが一通り終わった。

 もちろん、これでひらがながマスターできたわけじゃない。
 長い年月をかけて凝り固まった自分の字の癖は、ちょっとやそっとじゃ直りゃしない。手本を見ながら忠実に真似して書いているつもりでも、あらゆるところに癖が顔を出す。"セルフ添削システム"を使って手本と自分の字を重ねてみるまで線を傾ける方向が逆だったと気づかないことも多い。気づいたところですぐに修正できるわけでもなく、気を抜くと同じ過ちを繰り返す。


 いまの段階では、とりあえず「おれが認識しているひらがなは手本とだいぶ違っている」とわかっただけ。手本を見ずにきれいな字が書けるようになるのは、まだまだ先のことになりそうだ。そもそも、そうなれるという見通しすら立っていない。ペン習字の道は思っていたより長く険しいようだ。


 パイロットのペン習字通信講座では、毎月課題が出る。所定の用紙に字を書いて郵送すると、添削後に返送してくれるシステムだ。
 また、添削課題とは別に、段位認定の課題も毎月出題される。


 添削課題は系統ごとに書くべき字が異なる。おれはB系統に決めたので、今回は「わかよたれそつねならむう」の12文字だ。
 これを用紙に印刷された枠内に書いてパイロットに郵送するわけだ。するとBコースの先生が添削をして返送してくださる、と。
 4月の課題は5月10日必着とのことだから、おそくとも5月5日くらいには送る必要がある。噂によれば、所定の添削用紙さえあれば期日を過ぎても添削してもらえるらしいが、締め切りは守ろうと思う。


 さらっと「B系統に決めた」と書いたが、系統を決めるにあたってはずいぶん悩んだし、人のお世話にもなった。感謝半分、記録半分のつもりであらましを書いておこう。


 twitterでフォローさせていただいている方がパイロットの講座の先輩で、おれが「系統選びに迷っている」とつぶやいたら、「参考になれば」とB系統の講師陣が多数参加されている競書雑誌を送ってくださったのだ。いや、反対かな。その競書雑誌の運営母体となっている団体の方がB系統の講師にたくさんいらっしゃる、といったほうが正確のようだ。


 競書雑誌とは何かってーと、書道やペン習字の団体が発行する会報のようなものだと思う。思うと書いたのは、数日前までおれが競書雑誌の存在を知らなかったからだ。
 競書雑誌には講師の作品のほか、幼稚園児から大人まで、幅広い年齢層の会友の作品が掲載されている。講評も載っている。また、その会における段位や級位の発表も行われている。とにかく「字」をたくさん見ることのできる冊子である。


 15年以上もまえのことを思い出した。おれは雑誌編集者で、読者からの投稿ページを担当していた。編集部に毎週何百通と届く読者からの葉書のなかから、雑誌に掲載する作品を選ぶのは楽しい仕事だった。たいていはネタのおもしろさを基準に選んだが、ときには「この葉書に対してはこんなコメントが書ける」と選評を重視して採用することもあった。
そんな昔話はさておいて。


 twitterで知り合ったペン習字の先輩(おれよりだいぶお若いと思うけど)は、競書雑誌2冊のほか、ペン習字の講習会の案内などの資料も送ってくださった。さらにうれしかったのは肉筆のお手紙を添えてくださったことだ。
 添えてくださったということは、書いてくださったということだ。手紙には力がある。パソコンとプリンターを使った手紙にも力はあるが、きれいな字で丁寧に書かれた直筆のものとなると威力は数倍増しだ。
 「おれにもこんな字が書けるようになる可能性がある」と励ましてもらった気がした。


 おれがtwitterでつぶやいた翌日には、その方からの郵便が届いた。パイロットの10倍速い。twitterを通して日々多忙な方であると知っているので、いっそうありがたい。お手製の封筒もあったかい。
 もし立場が逆で、おれのほうからなにかを送る場合だったら、すくなくとも一週間はかかったと思う。おれが本当に学ぶべきは字の形じゃなくて、行動なんだよな。







 系統選びに話を戻そう。
 漢字だけならA系統がおれの好みだ。でもA系統のひらがなが好きじゃない。D系統はちょっと個性が強すぎて、自分にインストールするには負担が大きそうだ。
 となると残ったB系統かC系統の二者択一になる。じつはいったんはCと決めて、字典も買ったし練習も始めていた。でもまだ鞍替えはできる。ここは勢いに乗って、B系統でいってみよう。Bにはどこか父の字と似た感じもあるし。


 というわけで、B系統に決めました。