第16回 4月の添削課題の提出期限が迫っている。「受講のスタートが遅れてたぶんだけ練習に精を出さねば」と机に向かっていたら、くだらないことを思いついてしまった。


 いまよりちっとはマシな字が書けるようになったら何を書くか? たくさんある候補のなかでもぜひ書いてみたいのが"くだらないこと"だ。


 もう25年もまえに廃刊した雑誌、『ビックリハウス』。
 短くまとめれば"読者投稿による冗談の雑誌"だ。中学生だったおれはこの雑誌の熱心な読者で、投稿もしていた。『ビックリハウス』から受けた有形無形の影響は、いまのおれの脳みそに濃く残っているはずだ。


 雑誌のなかでは花形の存在ではなかったが"筆おろし塾"というコーナーがあった。
 お習字の作品を載せるコーナーで、あたらしく登場したときは数ページが割かれていたが、だんだんと他のコーナーのページの隅の囲み記事扱いになっていったと記憶している。 "筆おろし塾"は文字の美しさではなく、選んだフレーズを競うものだった。墨跡黒々と『東証ダウ』と認められた作品を見て大笑いしたことを思い出す。


 きれいな字でくらだないことを書きたい。
 完成度の高いいたずら書きをしたい。
 おれのささやかな野望である。


 いたずら書きといえば『へのへのもへじ』だ。
 小学校から高校まで、習字や書道の時間にはかならず書いたものだ。墨で書いた『へのへのもへじ』は、ちょっとだけ立派に見えた。字のうまい奴の『へのへのもへじ』は、やっぱりおれのよりも整った顔をしていた。


 達筆の『へのへのもへじ』はどんな顔なのか。
 こんなことを思いついたとしても、実行に移さないのが大人というものだ。もし書いてみたとしても、手帳の隅に鉛筆で小さく書いたら満足して、照れながら消してしまうのが大人というものだ。
 しかし、おれは血管の老化が進んでいるぶんだけ精神年齢が低い。そして目の前にはパイロットのペン習字講座のテキストがある。となれば、やることはおのずと決まる。
 けっこうな手間ではあったが、スキャナーと画像ソフトを使って達筆の『へのへのもへじ』を作ってみた。


 サンプルにしたのは、パイロットのA系統からD系統までの4種類の見本だ。『かな編』のテキストからスキャンした。
 合成するときのルールは、文字の大小の比率と角度を変えないこと。ただすこのルールだと顔の輪郭を像る"し"の字のバランスがおかしくなってしまうので、『へのへのもへ』の4文字・6パーツで顔を描いた。


 また、"へのへのもへ"は男性っぽい顔になって色気が足りないので、『へめへめくこ』で女性の顔も作ってみた。


 さあ、へのへのコンテストの開幕です。




























 それぞれの顔についての講評は書かないが、『へのへの』ならこっそりとくだらないことを考えていそうなC、『へめへめ』なら割烹着の似あいそうなAがおれの好みだ。