第14回 ひらがなの練習である。テキストの見本を観察して、その通りに練習ノートの4分割の枡目に書く。書こうとする。書けやしねえ。


 自分では見本をよく見ているつもりなのに、似ても似つかない字を書いてしまう。観察の際のポイントがわかってないのだろう。
 手本をまねてるつもりなのに、自分の癖が出しゃばってくる。結果、どうにもバランスの悪い、腰の浮いた字になっちまう。


 「ペン習字を身につけても、本来の癖字はいつでも書ける」。
 この説を信じることにしたので、手本をまねることに抵抗はない。思い切りよく、手本そのものの字をインストールしちまいたい。


 頭ではそう考えているのに、手は違う形の字を書いてしまう。
 手本と練習ノートを左右に並べて見比べる。違っていることはわかる。おれの字のバランスが悪いこともわかる。でも、具体的にどこがどう違っているのか、どこを直せばバランスがよくなるのかがわからない。


 しばらく考えていたらひらめいた。
 見比べてもわからないなら、重ねちまえ!
 そう思って、実行してみた。手順はこうだ。使うのは2つのフリーソフト


 自分の書いた字をスキャンする。
 ↓
 必要な部分だけをトリミングし、比率を維持したまま縦600ピクセルに縮小する。







 手本をスキャンする。
 ↓
 トリミングしてから、JTrimで文字の色を赤くする。
 ↓
 比率を維持したまま縦600ピクセルに縮小する。
 






 PhotoScapeを使って、自分の字のうえに透過度を調整しながら手本を重ねる。
 手本は正方形の枡目に書いてある。練習用に使うノートを正方形の枡目つきのものにすることで、サイズさえ合わせれば両者はぴたりと重なることになる。








 これで完成。


 手本の字を赤くする段階は、JTrimを使ってこんな手順でやっている。
・「カラー」メニューから「ネガポジ反転」を選択

・おなじく「カラー」メニューから「単色カラースケール」を選択し、赤い色を選ぶ。

・もともとは白かった部分が反転して黒くなっている。
 「編集」メニューから「塗りつぶし」を選び、マウスを使って黒くなっている部分を白に塗りつぶす。


 もっと簡単に、なおかつより美しく字を赤くする方法があると思う。でもいまのおれにはこれしか思いつかないし、仕上がりもなんとか実用に耐えられるレベルなので、こうしている(よりよい方法をご存知の方、ご教唆ください)。


 こうして自分の字に手本を重ねることで、ズレが明確になる。画像処理の過程で線の微妙な味は消えてしまうが、いまは味なんて言える段階じゃないから問題なし。


 ズレの度合いや傾向を観察し、癖を修正すべく書き直す。自分では「うまく書けた」と思っていた字が、手本と大きくズレていたりする。また、いまいちだと思っていた字が、じつは手本に忠実だった……ということは残念ながらない。
 これを定期的に繰り返し、釉薬を重ね塗りするように練習していけば、いつかは見本に近い字が書けるようになると考えている。
 すくなくとも、まだ「字配り」を気にする必要のない現段階では、有効な練習方法だと思っている。


 問題なのは、パソコンで重ね合わせの処理をした時点でひと仕事終わった気になってしまうことだ。その後の観察・修正をせずに練習を終えてしまいがちなのだ。ここがいちばん大事だって、頭ではわかっちゃいるんだが。


 頭でわかってることを手に覚えさせるのは、一筋縄じゃいかないようだ。