ペン習字
地元の文具店では万年筆が売られていなかった。これは意外だった。その店は、30年ほど昔には「東京で2番目に大きい文具店」を売り文句にしていたくらいだからそれなりの規模ではあるのだが、いまでは万年筆をほとんど置いていない。数本の在庫があるにはあ…
父が亡くなってから24年になる。いま思えば、父はおれが好きなタイプの大人だった。陽気で温和、ろくに小学校も出ていないはずなのに物知りな人だった。おれが知っているのはこれだけで、あとは父の死後に祖母から聞いた話だ。その祖母も去年亡くなった。 腕…
万年筆そのものを最初に製品化したのはウォーターマンだとか、モンブランはいまではリシュモンの傘下にあって品質の低下が指摘されているとか。ほんの数日まえまで万年筆に関してはまったくの門外漢だったおれが、短時間でにわか万年筆通になっていた。半可…
「書き心地」。そんなものがあること自体をすっかり忘れていた。 ロットリングのボディーに刻んでもらった自分の名前―本名ではないが―を見て、いいもんだなと思った。たったの8文字の刻印があるだけで、大量生産の工業品が手作りの一品物に化けた気になる。…
名入れ代は600円〜800円(ペンの素材による)だが、税別で5000円以上の買い物をすれば無料になる。さらに、送料までショップ負担だ。 ペン自体の定価は5000円だが、その店ではちょと安くて3900円をすこし欠けるほどだった。この値引きぶんを他の買い物で埋め…
かすれずに書ければいい、それだけの存在。そもそも手で文字を書く機会あまりなかった。原稿を書くにはパソコンのほうが便利だし、趣味と実益を兼ねていた塾講師の仕事でも、パイロットのドクターグリップ4+1があれば十分に用が足りた。 もう1本、まだ文…
わかりやすい理由だと思う。この理由にあとからつけ加えた理屈もあるが、それらはすべて蛇足と感じる。でも、あれこれ書いておこう。こうして書くのもリハビリだから。 ひとくちに脳梗塞といっても症状には重度軽度いろいろある。重ければ発症直後に命を落と…