第38回 パイロットのペン習字通信講座。4ヵ月も居座った9級Aを卒業し、8級Bになることができた。


 パイロットペン習字通信講座では、最下級は10級ってことになっているが、実質的には9級Aがスタートラインだとおれは考えている。
 毎月の『わかくさ通信』には事務局によって認定された級位が掲載されるが、10級にかぎっては割愛されている。その理由は、10級の人数が少なすぎるか多すぎるかのどちらかだろう。


 パイロットに新規に入会した人たちの様子をtwitterで見ると、ほとんどがおれと同じ9級Aからのスタートだ。このことから、10級は幼稚園児や小学校の低学年で「やっと字が書けた」人に対して認定される級位なのでは、と考えるようになった。


 また、9級Bという級位はなぜか存在しないようなので、9級Aが実質的なスタートラインと考えてよいだろう。
 なかにはいきなり7級Aでデビューするエリートもいるが、おそらくパイロット以外の手段でペン習字の経験がある人たちだと思う。
 このことから、頭に「いちおう」をつけずに「ペン習字をやっている」と言うためには7級になる必要があると考えている。つまり9級と8級は、ペン習字を学ぶための土台作りの期間ってことだ。

 土台作りまっ最中であることに変わりはないが、このたびようやく8級Bになることができた。めでたい。









 受講を始めたばかりのころは、毎月、すくなくとも隔月ペースで昇級できるだろうと考えていた。だから深く考えもせずに「1万円以上の万年筆を買っていいのは5級になってから」などという、いま思えば厳しい縛りを設けてしまった。


 甘かったね、おれは。
 最初に認定されたのが9級A、つぎの月も9級A、「そろそろ昇級か」と思えば誤字により規定外、正確に書けば昇級するだろうと思っても9級A。そんな4ヵ月間だった。


 この"なかなか昇級させてくれない"ことについて、半分はおれの自業自得だと認めつつ、残りの半分については「パイロットは厳しすぎんじゃないの?」と思っていた。
 しかし、この厳しさは誠実さとイコールなのだと思う。営利目的のペン習字講座であれば、入会後しばらくのあいだは審査を甘くして、5級くらいまでは気前よく昇級させるだろうから。そうして数字によっておだてられれば、受講生は気をよくし、次年度の受講料もほいほいと払うと思うのだ。実力本位、掛け値なしの評価をするのは、中級になってからでも遅くはない。


 ところがパイロットはそうしない。
 3ヵ月同じ級位に留まったらやる気をなくしてしまう人がいるかもしれない。おれの場合は"よき先輩"がいてくれるので退会を考えることはなかったが、会員数の維持・増加だけを狙うなら、パイロットのやりかたは賢いとは言えないんじゃないか。


 しかし、パイロットは賢さよりも誠実さを選んだんですね。
 この講座が営利目的ではなく一種の文化事業であるとどこかで読んだ気がするが、それは本当なのだろう。手軽な昇級と引き換える目先の利益ではなく、パイロットはもうすこし先を見ているようだ。えらいぞパイロット。昇級できないとじりじりするけど。


 こんなことを考えてた矢先でもあったし、なにより長いこと焦がれ続けた昇級だったから、実現したときには自分でも大喜び……すると思っていた。しかし、実際に昇級が判明した時期はペン習字以外のことで慌ただしくしていため、じっくりと喜びを味わい損ねてしまった。ま、現実ってこんなもんだ。


 ともかく。今回からはこのブログを「8級編」とし、新たな気分でペン習字に取り組もうと思っている。


 と書いたものの、自分の字が上達しているかどうかは、いまだによくわからない。「え」の形をペン習字独特のものにするとか、「事」の横線は1画目をいちばん長く書くといった知識は徐々に蓄積されているが、線そのもの、文字そのものの質が向上しているか否かが、どうもぼんやりしている。


 そこで。
 ひとつは自分の記録のため、もうひとつは第三者から見てどうなのかを知る材料とするため、3ヵ月まえと同じ文章を書いてみた。
(3ヵ月まえの記事は → こちら


 まずは落語の『黄金餅』の一席から"道中付け"と呼ばれる部分。万年筆は3つの日付すべてウォーターマンル・マン オペラだ。ペン先はM(中字)。あ、『黄金餅』は志ん生バージョンね。










 もうひとつ。
 『赤瀬川源平の名画読本』から、ゴッホの章の一節。万年筆はすべてモンブラン146、ペン先はB(太字)。










 自分の目には、万年筆の扱いに慣れてきたことが字に現れているような気もする。反面、縦線などは3ヵ月まえの7月と比べても右に流れてしまっていて、へたになっているような感じもある。


 信頼しているパイロットが認めてくれたのだから、上達してはいるんだろう。そう思うだけである。


 つぎに同じ文章を書くのはまた3ヵ月後。と思ったが、8級Aに昇級できたときにしよう。3ヵ月以内だったら喜ばしい。