第32回 パイロットのペン習字通信講座を学び始めたのが4月の中旬だから、すでに3ヵ月半が過ぎたことになる。すでに課題も4回提出した。練習時間だって合計すればけっこうなものになるだろう。さて、おれの手はよくなっているのだろうか?


 パイロットから月の頭に『わかくさ通信』が郵送されてくる。電車の中吊りポスターほどのサイズの紙を2枚、2つ折りで使った新聞状の会報だ。8ページが一号ぶんである。この『わかくさ通信』の紙面を大きく割いて掲載されているのが"級位認定者一覧"なるコーナーで、受講者はここを見ることで自分の最新の級位を知ることになる。おそらくほとんどの受講生が最初に見るのもこのコーナーだろう。


 4月の課題の締め切りは翌月の5月10日で、その結果が『わかくさ通信』に載るのは6月頭の送付号。どんな課題を書いたのかを忘れてしまった頃に発表となるわけだ。このあたりのゆったりした時間の流れは、ペン習字にじつに似つかわしいと感じている。
 入会後のおれの級位はこうだ。




課題の月


 発表の月


 級位


4月


6月


9A


5月


7月


9A


6月


8月


(9A)




 みごとに3ヵ月連続9Aである。
 級位のいちばん下は10級で、最高は1級だ。そのうち9級から4級までの5つの級にはAとBがあって、Aのほうが偉いらしい。1級から先は段位となり、1段から7段までがある。
 つまり、AとBをカウントすれば全部で22段階、カウントしなくても17段階のクラス分けがなされているわけだ。
 で、おれの9Aは下から3つめ、ないし2つめなので、パイロットにしてみれば「はいはい、受講生であることはたしかですね」程度のものである。


 上に載せた表のなかで6月ぶんの級位がカッコつきで(9A)となっているのには理由がある。「やっちまった」からだ。なにをやっちまったかと言えば、誤字である。








 誤字や脱字、課題の取り違えなどがあった場合は昇級審査の対象外となり、前月の級に据え置きとなる。
 この月、おれは"写"の字の3画目を、本来は左から右に書くべきところ、右から左に書いてしまった。書き順は合っていたが、書く方向がまちがっていた。審査の先生がそれを正しく咎めて対象外となった次第である。ああ恥ずかしい。


 おれの計画ではこの号の発表で8級Bとなり、ブログの章だても"8級編"になっているはずだったのだ。それが、昇級はおろか規定外。穴があったら……とはこのことだ。


 というわけで、おれはこの講座を始めてから一度も昇級していないのだ。となると、字が上達したのか、それとも受講まえのままなのか、客観的にはわからないことになる。
 でも本人の実感としてはこう思っている。「字はうまくなっていないかもしれないが、丁寧に書こうという意識はすこしだけ身についた」と。
 ま、こんなことを言ったところで、気持ちの問題に過ぎない。「そんなの錯覚だ」と言われれば同意しかねない次元の話だ。


 と書いたところで終わってしまうのもひどい話なので、こんな写真を載せてみよう。4月と7月に同じ文章を同じ万年筆で書いたものだ。



 2組の写真を自分で見比べた結果、すくなくとも"長足の進歩"の跡はないようだ。どちらも長年かけて染みついた癖字のままだと言える。
 ただし7月の字には「それぞれの画の間隔を均等にしよう」という意識がかろうじて見えると思う。
 つまり「上達したとは言えないがきれいに書こうという気持ちの萌芽だけは見てとれなくもない」ってところか。


 いまは8月なので、もうしこしだけマシになっていると思う。でも差はかすかなものだろうから、7月の3ヵ月後、つまり10月になったら、また同じ字を同じペンで書いてみよと考えている。