第20回 3泊4日の心カテ(心臓カテーテル)の検査入院から帰宅すると、パイロットから緑の封筒が届けられていた。今月の5日に投函した4月の課題が、添削→返送されてきたのだ。

 課題の締め切り(必着)は毎月の10日。「締め切り間際は混雑するので早めの提出を心がけましょう」といったことがどこかに書かれていたように思う。
 締め切りに間に合わなかった場合は、添削は受けられるが級位の認定が受けられなくなってしまうそうだ。


 できるものなら締切日の10日前、つまり前月中に事務局に届くように発送したいものだと思う。しかし4月はおれにとってペン習字事始めの月で、教材そのものを手にしたのが4月17日だったから、今回はぎりぎりだけど勘弁してもらおう。実質練習日数は20日ってことになる。


 返送されてきた用紙には、5月7日に事務局が受け付けたことを示す受領印が押されていた。
 ってことは、約1週間で添削・返送してくれたことになる。入会時の教材発送までにけっこうな日数がかかっことから、もっと時間を要するだろうと覚悟していたのだが、意外に早かった。
 こちらが送ってから2週間ほどで戻ってくる、と考えてよいのかもしれない。


 添削課題清書用紙はテキストといっしょに配布されている。
 初級・中級・上級のなかから自分に適したものを選び、その紙に毎月の『わかくさ通信』で指定される課題を清書する。
 おもしろいなと思ったのが、用紙の左下の隅にある三角形の添削シールの添付欄である。月々の『わかくさ通信』から添削券を同じ形に切り取って、ここに貼りつける。どこか昭和の匂いのするシステムだが、ペン習字という"手仕事"に似つかわしくて、なかなか楽しい。


 清書用紙には、清書をする欄が2つ用意されている。
 ひとつは用紙の右側に書きこむ毎月の添削課題(初級〜上級の区別あり)。
 もうひとつは左側に書く級位(段位)認定課題で、こちらはすべての会員が同じ課題の文を書くことになっている。


 添削されておれのところに戻ってくるのは添削課題だけで、級位認定課題は事務局で保存されるようだ。
 だから郵送で提出するまえにスキャンしておかないと、級位認定課題を手元に残すことはできないようだ。級位の認定結果は翌月のわかくさ通信紙上で行われる。つまり、添削課題が返送されてきた時点では、自分の級位はわからないのである。

 そうそう、パイロットの級ではいちばん下が10級である。
 いまのところ、おれはまだ一度も級位認定を受けていないので11級を勝手に名乗っている。順調に行けば来月の頭には10級になれるはずなのだが、留年の常習犯なので油断はならない。





 2つの課題を送る際に悩んだのは、「どこまでうまく書いてよいのか」ってことだった。うまく書こうと思ったところで書けもしないくせにこんなことを考えるのは生意気である。しかし、ずるい手を使えば手本に似せる度合いは自分で調整できる。
 極端な考え方をすれば、清書用紙の下に手本を敷いてトレースすることで、すくなくとも字形の点では手本と同じ字を作ることができる。筆勢は死ぬだろうが、そこそこの評価は得られるはずである。そこまでやらなくても、清書を書く欄に鉛筆で枡目を作っておくことで、字粒を揃えることだってできる。


 トレースしたのでは意味がないことは明らかだ。だから、それはなし。
 では枡目の問題をどうするか。おれが選んだ方法はこうだ。練習段階では枡目あり、本番では枡目なし。
 また、本番のときに手本を見ながら書くか、見ずに書くかという問題もある。理想を言えば、練習段階で字形・字配り(字の大小や間隔)を頭と手に覚え込ませ、手本なしで書くのがよいのだと思う。しかしいまの段階のおれにそんな芸当はとてもとても無理なので、清書用紙の横に手本を置いて、一字一字、写すようにして書くことにした。


 練習を続けて上級になると、楷書であれば手本とほぼ同じ形の字を書けるようになるのだろうと想像している。
 そうして手本に似せて書くことができるようになってからがペン習字の本番で、どう味や個性を出していくか、が問われるようになるんじゃないあかと思っている。盤石の土台の上に築く個性ってやつだ。
 あるいはこう考えるのは素人の浅智恵えで、手がよくなれば目もよくなって、手本との微妙な違いがつぶさに見えてくるのかもしれない。
 この点に対する答えを自分なりに得られるようになるにはどのくらいの時間がかかるのだろう。そもそも、わかるときが来るだろうか。


 もうひとつ、添削課題と級位認定課題のどちらに重点を置いて練習するか、という問題もあった。理想を言えば「両方とも同じようによく練習する」が正解なのは自明だが、実際にはそうはいかない。
 すぐにご褒美をほしがる性格のおれは、級位認定課題により時間をかけて練習して、すこしでもはやく昇級したいという気持ちがある。しかし、実力以上の字を書いて、実力以上の評価をもらったとしても意味がない。これまた自明だ。
 というわけで、どちらかといえば添削課題ににより時間をかけて練習した。

 ま、偉そうなことを考えても結果はこんな程度なんですけどね。





 さて、返送されてきた添削課題である。
 評点は78点。この点数の基準がどこにあり、平均点がどのくらいのかはまったくわからない。だが、この点数はおれにとっては予想外の高評価だった。内心では「ペン習字を甘く見てはいけません。手本をしっかり観察して納得できるまで繰り返し練習しましょう」くらいのことが書いてあってもやむなし、と思っていた。
 実際のコメントは以下のとおりだ。
「大きさ、字間よく書けていますが、線になめらかさがなく、ぎこちななく見えて残念。書き込んでください。」
 あれ、意味としてはほとんど同じか。

 ご指摘のとおり、字がカクカクしてる。形を似せることばかりに神経が集中して、関節がぽきぽき鳴りそうな字だ。
 スキャンすると字は2〜3割うまく見えるものなので、実物はもっとひどいもんです。


 ああ恥ずかしい。