第29回 おれが世話になっている病院では、七夕が近づくと入院棟の各階に七夕飾りが用意され、入院患者や見舞客の手による短冊を見ることができる。これを眺めてまわるのがなかなか楽しい。


 去年の七夕はおれも入院患者だった。
 退院が7月8日だったので、七夕の日には元気をもてあましていて、病棟をめぐっていろんな思いの詰まった短冊を見た。
 そのときの記録はこちら(前編)こちら(後編)


 さっそく今年の七夕ハンティングを始めよう。











あと103cmでいいから背が
伸びますように!!




 ここは老人病院なので、入院患者が書いた短冊ではないと思う。見舞いに来た孫か、または看護婦か。最初は勢いで10cmと書いたものの、イメージしてみたら背が高すぎて7cm低くしたようだ。「願いは叶う」という前提で書かれているのである。








●●吉夫あにき

いつまでも長生きして下さい

心より祈っています。




 気になるのは「あにき」の3文字だ。
実の兄弟ではなさそうな気配がある。任侠系の兄弟関係だろうか。








今年中にイケメンな彼氏が

出来ますよーに

毎日、笑って過ごせますよーに






 たぶん看護婦さんだと思う。「イエーイ」の顔は自画像かな。明るいムードメーカーなんだろうな。





バァバが

今のままの

年でいれます

ように!




 「もう年をとらないってことは……」などと揚げ足を取っちゃいけない。もうこれ以上老いない、具合が悪くならない、という意味に取ろうではないか。








たなばたさま

たなばたさまと

今日も祈られる

おいそがしいでしょう






 自分の祈りや願いではなく、七夕様を心配して労う気持ち。











おこづかいが

値上がりしますように

将之






 現世利益タイプ。しかしこの時代だ、どうかな。










お金もちに

して下さい!!

by CN4






 これも現世利益タイプだが、願いがきっぱりしていて気持ちがよい。







早く元気な体になりたい
●村カク様





 自分の名前に「様」をつけるかな? と思ったが、筆跡が違うようだ。おそらく名前は看護士がつけ加えてくれたものだろう。








クロールで25メートル

泳げるようになりたい

●さきゆの






 入院患者のお孫さんの願いを、お母さんが代筆したと見た。具体的な願いである。











たんざくに ねがいをかける

たなばたに

先生のごおん

かんごしさんのごおん

けっしてわすれません

星に幸とけんこう

おいのりします






 まず感謝。そして願い。しみじみと、気持が伝わってくる。








じいちゃん早く元気になって

旅行行こう。絶対治るから。

おねがいします。●●麻衣







 書き始めはじいちゃんへの呼びかけだった。でも書いているうちに、七夕様へのお願いになった。旅行、行けるといいな。










忍ぶれど色に出にけり

我が恋は

ものや想うと

人の問うまで






 入院患者どうしの恋が生まれる予感? と思ったが、同じ筆跡で百人一首を書いた短冊がたくさんあった。にぎやかしでした。








ねりまのじいちゃん

八月の手術も、スムーズにいきます

ように。おじいちゃんが、嫌がってあば

れませんように。いい子に、いい子にしてて。

また一緒に帰りましょう。







 おそらくじいちゃんはかなり痴呆が進んでいる。でも「また一緒に帰りましょう」と祈ってくれる気持ち。「また」ってことは、初めてじゃないんだ。








ばばがんばろう

ここ、ろちゃんに






 2行目はなにを言っているかわからない。でも、ばばにがんばってほしいという気持ちは強く伝わってくる。










ぷーるでおよげます

ように

ぶらいあん




 名前がぶらいあん。ニックネームではあるまい。いろいろ想像すると、裏返った「う」も愛おしくなってくる。








ロトシックスが

◎当ります様に




 的を意味する「◎」があるだけで、叶う確率がずんと上がった気がする。








早く一人前に

働けますように!

さくらい




 書いたのは入院患者だろう。ここは老人病院であることを考えると、頭が下がる。さくらいさん、かつては2人ぶんも3人ぶんも働いていたにちがいない。








もっともっと唄が

上手になりますよ〜





「よ〜」って。途中で唄い出してしまったみたいだ。


 後編はこちら